2018年より本サイトで連載中の人気コラム「エピジェネティクスの交差点」全作品一覧です。公開年月、タイトルとともに作品ごとのキーワードを「一般」「専門」に分けて表示しています。ガイドとしてご活用ください。
塩田 邦郎(しおた・くにお)先生
東京大学名誉教授
1950年鹿児島県生まれ。博士(農学)。79年東京大学大学院農学系研究科獣医学専攻博士課程修了後、武田薬品工業中央研究所、87年より東京大学農学生命科学研究科獣医学専攻生理学および同応用動物科学専攻細胞生化学助教授、98年より同細胞生化学教授。
2016年早稲田大学理工学研究院総合研究所上級研究員。哺乳類の基礎研究に長く携わり、専門分野のエピジェネティクスを中心に、生命科学の基礎研究と産業応用に向けた実学研究に力を注ぐ。2018年より本サイトにて、大学や企業での経験を交え、ジェネティクスとエピジェネティクスに関連した話題のコラムを綴っている。
公開 | タイトル/キーワード(一般・専門) |
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2024年10月 | 第七十六回 ジャック・オー・ランタン歯の起源 |
気の早い商店街では9月中旬頃から、歯を剥き出した赤いカボチャのランタン(Jack-o'-lantern)を見かける。カボチャは別として(編集部注:「第三十九回 カボチャ嫌いの言い分」)、秋には美味しい食べ物が、と書き出したいのだが、しばらく前から奥歯が痛い。… |
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【一般】歯科医、かた焼き煎餅 【専門】入試、永久歯、一換歯性動物、歯の再生、USAG-1遺伝子、BMP-7、子宮内膜、着床、腎障害 |
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2024年9月 | 第七十五回 ドロンの活躍した時代より |
今年の全米オープン・テニスで印象に残ったのは、ベテランのジョコビッチや新世代の期待の星アルカラスが早々に敗れたことではなく、テレビで見た解説者たちの顔つきが、以前よりずっと老けていたことだった。… |
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【一般】全米オープン・テニス、解説者の老化、太陽がいっぱい、紫外線によるDNAのダメージ 【専門】早老症(プロジェリア)、ラミンA遺伝子(LMNA)、核ラミナ |
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2024年8月 | 第七十四回 マトリクス怪談 |
さて、どうしたものか。遠くから聞こえていたセミの鳴き声が途絶え、額から汗が流れる。北側の窓の壁には天井の中ほどまでカビが生えている。かつて海辺の街で見た土産物屋の天井に張り巡らされていた魚網を思い出す。… |
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【一般】天井のカビ、母由来、マトリクス、生命のマトリクス 【専門】核マトリクス、核ラミナ、ラミン分子、クロマチン、クロモソーム(染色体)、染色体テリトリー、エンハンサー、ヒストン修飾、ヘテロクロマチン、非コードRNA、セントロメア、テロメア、反復配列、分化、細胞外マトリクス、ミトコンドリアマトリクス、マトリクス |
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2024年7月 | 第七十三回 若き日の諭吉の顔 |
確か、若い福沢諭吉と女性のツーショット写真が載った本があったはず。その記憶を頼りに、本棚から『新訂福翁自伝』を探し出した。… |
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【一般】福沢諭吉、福翁自伝、紙幣の顔、樋口一葉、野口英世、渋沢栄一、津田梅子、北里柴三郎 【専門】科学研究費(科研費) |
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2024年6月 | 第七十二回 黄色いタイムカプセル |
昨夜から雨が降り、今朝はそれまでの暑さが嘘のように肌寒く空気が重たい。喉がいがらっぽく目が醒めると、老いた父親の咳(しわぶき)と“ゴホッゴホッ「王龍(ワンロン)や、お湯をくれ!」”の声が頭をよぎる。小説「大地」の霧に囲まれた農家の朝の光景だ。… |
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【一般】大地、パール・バック、清朝末期、庶民、知的障害、母よ嘆くなかれ、文庫本、タイムカプセル 【専門】フェニルケトン尿症、フェーリング診断法、酵素遺伝子欠損、ガスリーテスト、単一遺伝子異常、希少性疾患、ゲノム解析、遺伝子治療、エクソンスキッピング、ゲノム編集 |
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2024年5月 | 第七十一回 エピゲノムの水平伝搬 |
「梅干し」と聞いただけで口の中が酸っぱくなる。犬にベルの音と同時に餌を与えることを繰り返すと、ベルの音を聞いただけで唾液が出るようになる、という有名なパブロフの条件反射を持ち出すまでもない。… |
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【一般】梅干し、言語や文字、楽器の演奏、スポーツ能力、食文化、文化遺産 【専門】先天的、後天的、エピゲノム、脳の可塑性、シナプス伝達、シナプス再編、神経ネットワーク再構築、グリア細胞、アストロサイト、神経細胞、ヒストンセロトニン化、ヒストンドパミン化、垂直伝搬、水平伝搬 |
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2024年4月 | 第七十回 桜雨 |
小雨が降り寒さの残る春の日、京浜急行で横須賀に向かっていた。途中で外を眺めると、上大岡を過ぎた辺りから、川沿いに満開の桜が咲いていた。京急久里浜駅からJR駅側の広場を背に歩き始めると、豊富な水量の平作川で何かが水面を揺らしている。… |
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【一般】カイツブリ、桜、闘病生活、ホスピス、季節 【専門】免疫チェックポイント阻害剤、ヒストンGlcNAc修飾、研究者 |
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2024年3月 | 第六十九回 毒を喰らわば |
「ブロッコリースプラウトはからだに良いと聞いていたので、一生懸命に食べていました、でも・・なぜ毒なのでしょうね?」・・・好奇心が電話の向こうに感じられた。… |
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【一般】ブロッコリー、スルフォラファン、食物、豆科植物、パセリ、緑茶、ブドウ、ターメリック、神農、コアラ、ユーカリ 【専門】呈味成分、酸味、甘味、苦味、から味、旨み、色素、香気、DNAメチル化、ヒストン修飾、DNAメチル化酵素、ヒストン脱アセチル化酵素、ヒストンアセチル化酵素、、アリルメルカプタン、ゲニステイン、アピゲニン、エピガロカテキン、レスベラトロール、クルクミン、中間体、チトクロームP450ファミリー遺伝子、CYP2c遺伝子、TAS2R遺伝子、V1R遺伝子、青酸配糖体、フェノール系、ヒストンドパミン化、ヒストンセロトニン化 |
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2024年2月 | 第六十八回 カリフラワー応援歌 |
ブロッコリーが2026年から国民生活に重要だとして国が位置付ける「指定野菜」に加わることになった。「指定野菜」と位置付けられる品目は、消費量が多いことが条件の1つで、これまでキャベツやだいこんなど14の野菜が指定されている。… |
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【一般】ブロッコリー、ニューメキシコ州、ミズーリ州、ビタミン剤、サプリメント、カリフラワー、わさび、だいこん、わさび、指定野菜 【専門】抗がん作用、スルフォラファン、肥満、糖尿病、自閉症、老化、ヒストン脱アセチル化酵素阻害、HDAC、エピジェネティクス、エピゲノム、がん遺伝子、DNAメチル化阻害、βカロテン、ビタミンE |
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2024年1月 | 第六十七回 かずのこの一粒 |
“かずのこ”は子孫繁昌の象徴として婚礼等の祝儀にも用いられてきた。おせちにも欠かせず、我が家の元旦の食卓にも“かずのこ”が添えられていた。醤油漬けの“かずのこ”を前に、今年も正月らしい気分になったのだが、はたして子孫繁昌と結びつけるのは相応しいことなのだろうか?… |
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【一般】かずのこ、ニシン、いくら、子持ちシシャモ、子持ちカレイ、子孫繁昌、ウミタナゴ、メバル、カサゴ、グッピー、カダヤシ 【専門】胎生、哺乳類、胎盤、進化、単孔類、カモノハシ、ハリモグラ、卵胎生、仔魚、魚の胎盤 |
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2023年12月 | 第六十六回 Cパラドクスをめぐる年の瀬 |
私が乗っていた1970年代の車には、パワーウインドウやパワーステアリングはなかった。バックミラーも手動でドアを開け、外に出て自分の手で角度を調整していた。それでも、約100年前に米国で生産されていたT型フォードに比べれば部品数は圧倒的に多いはずだ。… |
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【一般】自動車、部品数、脱炭素社会、電気自動車、ゲームチェンジャー 【専門】ゲノムサイズ、大腸菌、出芽酵母、線虫、ショウジョウバエ、大腸菌、イモリ、ヒト、アメーバ、Cパラドクス、進化、水晶体、心臓、再生能力 |
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2023年11月 | 第六十五回 38年後を楽しみに |
「阪神タイガース優勝おめでとう」と製薬会社時代の同期にショートメッセージを送った。すると「道頓堀のように大喜びするエネルギーは無くなりました。あまり嬉しくありません」との返事、なんと返信しようかと、戸惑う。… |
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【一般】阪神タイガース、甲子園球場、モザイク 【専門】GFP遺伝子、X染色体、紫外線、DNAメチル化、ヒストン修飾、エピジェネティクス記憶、エピゲノム |
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2023年10月 | 第六十四回 栞を挟んで |
郊外の住居から30分も歩くと、紅葉が始まったばかりの森に着く。それほど深い森ではないが、甲高いヒヨドリの鳴き声に誘われ入って行くと、うっかりと迷いそうになる。… |
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【一般】道標、枝折り、エッセイ、【専門】書、付箋、銀杏、椎の実、読書の秋 【専門】 3x109、ゲノムDNA、1,000頁本、1,000冊 |
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2023年9月 | 第六十三回 科研費カケンヒ |
暑い日々が続いていたが、ふと空を見上げると天をうろこ雲が高く押し上げている。近くの公園には赤とんぼも、遠慮がちだが姿を見せている。毎年、この時期に気分が高まるのは、科学研究費助成事業(科研費)の申請の時期だからだ。… |
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【一般】教科書、真実、博士号、Ph. D. 【専門】科研費、後成説、前成説 |
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2023年8月 | 第六十二回 ありのままの顔 |
朝、寝ぼけ眼(まなこ)で鏡に向かう。これが私の顔だろうか?鏡に映った顔か、鏡を見ている側の問題なのか、確信を持てないまま、冷たい水で顔を洗うと、少しだけ自分を取り戻す。… |
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【一般】顔認証、スマートフォン、バイアス、蝋人形館、アナと雪の女王 【専門】機能的核磁気共鳴映像法、紡錘状回顔領域、顔領域、視覚野内、視覚経験、臨界期 |
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2023年7月 | 第六十一回 阿修羅像をめぐる鬼神学 |
その時に買い求めた「興福寺」と題する冊子には“阿修羅像:梵語(ぼんご)のアスラ(Asura)の音写で「生命(asu)を与える(ra)者」、あるいは「非(a)天(sura)」にも解釈される”とある。さらに“西域(ペルシャ)では大地に恵みを与える太陽神であったが… |
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【一般】地球外生命、人類の未来、想像力、山本七平、鬼神学、御伽噺、民話、弥勒菩薩、阿修羅像、金剛力士像 【専門】ゲノムDNA塩基配列、ゲノミクス時代、オーム、オミックス、トランスクリプトーム、プロテオーム、メタボローム、グライコーム、エピゲノム、マルチプラットフォーム、AI、白癬菌、表皮角層 |
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2023年6月 | 第六十回 キリマンジャロの老豹 |
本を買い求めて帰宅して読み始め、あれ? どこかで読んだことがあると思いながら、本棚を見ると同じ本が見つかることがある。コーヒーカップを手に、モノトーンの北向きの部屋で、重ねて購入した本に向かいながら、これが歳をとるということ? … |
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【一般】老年期、若返り、アンチエイジング、ヘミングウェイ 【専門】エピジェネティクス、DNAメチル化、ヒストン修飾、エピゲノム、DNAメチル化時計、エピジェネティクス時計、CpG |
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2023年5月 | 第五十九回 未来のおきく |
久しぶりに映画館に出かけ、「せかいのおきく」(監督. 阪本順治)を観た。父親を襲った刺客に斬られ声を失った“おきく”と、汲み取りを生業とする汚穢屋(おわいや)の若者たちとの青春を描いた物語だ。… |
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【一般】映画、厠(かわや)、肥桶、不平等な世界、地球1個、将来推計人口、成熟社会、中教審 【専門】ピゲノム変化、ヒステリシス |
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2023年4月 | 第五十八回 チャット狂騒 |
「先生、まだっすか?」しばらく居眠りをしていた彼が声をあげた。夜だいぶ遅くなっていたと思う。私は彼の論文ドラフトを読み、オリジナルを損なわずに直すにはどうするか、パソコンに向い、悪戦苦闘していた。私が質問を繰り返している間は神妙に姿勢を正していた。… |
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【一般】論文、対話型AI、ChatGPT、尿路結石 【専門】修士論文、研究論文、ドラフト、大規模言語モデル、進化、DNAメチル化、ヒストン修飾、エピジェネティクス、ゲノム-エピゲノム、モルヒネ、腎盂、尿細管 |
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2023年3月 | 第五十七回 研究費(2)桜の酔い |
神楽坂で集まりがあり、その帰り道でふと松井秀喜選手の大型パネルをエンゼェル・スタジアムで眺めたことを思い出した。大谷、ダルビッシュ選手など米大リーグ選手などを擁する2023ワールド・ベースボールクラシック1次ラウンド、日韓戦の夜の事だ。… |
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【一般】予算申請、研究費、グラント、NIH award、神楽坂 【専門】栄養、エピゲノム・ゲノム研究 |
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2023年2月 | 第五十六回 研究費(1)梅の便り |
紅梅が咲き始めている。この辺では白梅は少し遅く咲く。梅の花で思い出すことがある。「研究室は“一将功成りて万骨枯る”ではだめ。学生・院生がそれぞれポツポツと花を咲かせられなければね」とは、大学院時代の指導教官の口癖だった。… |
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【一般】サイエンス、研究費、科学研究費、未知に挑む 【専門】生理活性物質、放射線免疫測定法、シンチレーションカウンター、ガンマカウンター、制限酵素、逆転写酵素、ホルモン、成長因子、ピペットチップ、試験管、培養容器、クリーンベンチ、遠心機、CO2培養装置、サーマルサイクラー |
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2023年1月 | 第五十五回 塩1トンには達しないまでも |
「免疫や生殖の研究グループと共同でレトリートを計画している。そこで新メンバーに向けて、エピジェネティクスについて話してくれる?」と米国の友人が連絡してきた。そして「もしやってくれるなら、クリスマスカードは今後いっさい送らないようにするから」とも。… |
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【一般】学会、レトリート、クリスマスカード、塩1トンの読書、多種多様な価値観、年賀ハガキ 【専門】希少性難病治療、7〜8,000種類、創薬モデル、代謝中間体、情報量 |
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2022年12月 | 第五十四回 穏やかな午後の電車内 |
今年も残り少なくなったある日の午後、都心に向かう電車に乗り込みドア付近に近い席についた。ふと向かいの席を見ると、母親に向き合い微笑んでいる幼い女の子に気がついた。互いに顔を見ながら楽しそう! でも話し声は聞こえてこない? 手話による対話であった。… |
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【一般】手話、チャンバラ、木刀、釣り竿、竹トンボ、ローマオリンピック、聾学校、改正難病法、デフ、デフリンピック 【専門】鼓膜、有毛細胞、聴覚障害、話す能力、遺伝子治療、iPS細胞、再生医療、発症前後エピゲノム変化 |
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2022年11月 | 第五十三回 フェイクの真実 |
夏の太陽が輝くビーチ、秋の紅葉、冬の雪景色、春の桜吹雪、季節毎のコマーシャルに気分も盛り上がる。カロリーを気にせず、甘さに浸れる幸福感、ダイエットを謳う炭酸飲料は意志薄弱を責めつけない商品の数々だ。甘いが太らない人工甘味料はフェイクである。… |
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【一般】砂糖、食糧難、ダイエットの効果、捏造、でっち上げ、自動販売機、コーラ瓶 【専門】:人工甘味料、活習慣病、認知症、リスク・ファクター、ヒストンアセチル化、NAD+、アセチルCoA、ヒストンラクチル化、ヒストンGlcNAc化、エピジェネティクス因子、外来生物由来、内因性ゲノム、フェイク、制限修飾システム、非コードRNA |
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2022年10月 | 第五十二回 天高く馬も人も |
天高く馬肥ゆる秋、澄み切った青空のもと、散歩をしていると、保育士らしき外国人と子供たちがキャーキャーとはしゃぎながら公園に向かう列に出会った。英語で接するキッズ・スクールの幼児たちだ。… |
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【一般】英語能力検定、外国語、英語教育、話す、聞く、書く、ネイティブ・スピーカー、四書五経、渋沢栄一、ドナルド・キーン 【専門】言語習得、臨界期、神経幹細胞、経ネットワーク、脳の可塑性、エピジェネティクス、言語中枢、エピジェネティクス・コンピュータ |
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2022年9月 | 第五十一回 女王陛下の007 |
「あの人、アレあの番組だよね?」「そうそう、アレなんと言ったかね?」・・顔は思い浮かべているが名前が出てこない。そうそうが007とボンド・ガール?として登場したのは、ロンドンオリンピック開会式だった。… |
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【一般】エリザベス女王、物忘れ、老化、脳機能障害、外交ソフトパワー、チャールズ3世 【専門】認知症、失語、頭部の外傷、感染症、血管障害、腫瘍、エピジェネティクス異常、CT検査、MRI検査 |
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2022年8月 | 第五十回 ツクツク法師の教え |
「しゃーしゃー」「じいじいー」とクマゼミやアブラゼミの鳴き声はうるさかったが、子どもの頃、夏休みの初めの解放感は何よりも素晴らしかった。「おーしつくつく」とツクツク法師が鳴き始めると夏も間もなく終わる。… |
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【一般】母語、外国語、思考プロセス、第二外国語 【専門】言語中枢、ヒステリシス |
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2022年7月 | 第四十九回 ケネディ・コイン |
西暦1967年のケネディ・コインが手元にある。45年前に米国セントルイスのブックストアーで釣り銭の中に見つけたコインだ。科学技術をリードし自由の国を標榜する米国、何もかもが素晴らしく思えていた米国社会のはずだった。ジョン・F・ケネディが銃弾に倒れた1963年は私が中学1年生だった。… |
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【一般】数百万年前、アフリカ大陸、猛暑、地球温暖化、食糧難、疫病、争い、月面有人探索・アポロ計画、人類自己破滅 【専門】原核細胞、真核細胞、ゲノムDNA、クロマチン |
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2022年6月 | 第四十八回 カツオのウーバーイーツ |
“目には青葉山ほととぎす初鰹(山口素堂)”、今年もカツオの季節だ。伝統のタタキ、洋風にカルパッチョ、と視覚・味覚・嗅覚など総動員して季節料理の妄想が始まる。… |
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【一般】新型コロナウイルス感染症、テレワーク、ウーバー配達 【専門】後遺症、PCR、SARS-CoV-2、呼吸困難、倦怠感、頭がぼんやりした状態(brain-fog)、めまい、睡眠障害、高血圧、ロング・コービッド、long COVID、麻疹、RNAウイルス、インフルエンザ、おたふく風邪、オミクロン株、ウイルスRNA断片、免疫系暴走、大規模ゲノム解析、ENCODE計画、非コードRNA、短鎖非コードRNA 、microRNA、miRNA、長鎖非コードRNA、lncRNA,、SINE、レトロウイルス様因子、レトロトランスポゾン、エクソソーム |
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2022年5月 | 第四十七回 歌を忘れたカナリア |
“歌を忘れたカナリアはうしろの山に捨てましょうか♪・・” 見るからに色褪せた絵本の中のカナリアが困った顔をしていた。鳴かないからと言って何も捨てることはないのでは!と、勝手な歌詞に納得できなかった子供の頃の思いは、今でも他人事とも思えず続いている。… |
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【一般】ウグイスの鳴き声、キジ鳴き声、過食、運動不足、肥満、糖尿病、生活習慣病、男子妊活、栄養状態、肥満男性、食事制限、持久トレーニング 【専門】精子形成、ヌクレオソーム、プロタミン、エピゲノム、精子エピゲノム、非コードRNA |
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2022年4月 | 第四十六回 宇宙時代の精子 |
アフリカ大陸で生まれた人類の祖先達は、自然環境が大きく異なる地域にまで進出し、他の大陸・島々などへ生活域を拡げ子孫を残してきた。この間、人類の最大の課題は食糧の確保であっただろう。個体の寿命が尽きることを前提に生殖細胞(卵子と精子)が作られる。… |
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【一般】受精レース、子孫、エリート精子、先行逃げ切り型、大器晩成型、画一的な受精、人類史、出エジプト 【専門】精子、卵子、受精、卵管膨大部、精子頭部、精子尾部、エネルギー源、ミトコンドリア、生殖幹細胞、精祖細胞、精母細胞、精娘細胞、減数分裂、エピジェネティクス、精子運動能力 |
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2022年3月 | 第四十五回 心・技・体の心 |
本番では力を発揮できない人がいる。私もその一人だ。テニスの最終セットでセカンド・サーブをまたも失敗、中盤まではサーブも入るしストロークもボレーも問題ない。しかし、最終局面でガタガタと崩れてしまう。… |
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【一般】本番、メンタルの弱さ、反復練習、運動学習、根性、成せばなる、メンタルトレーニング、メンタルマネージメント、コカイン中毒、へロイン中毒、薬物依存、麻薬中毒、ランニング・ハイ、献血、脳死、成功体験、快楽、幸福感 【専門】神経ネットワーク形成・維持、遺伝子発現エピジェネティクス制御、エピジェネティクス修飾、ヒストンH3ドパミン化、ヒストンH3セロトニン化、腹側被蓋野、扁桃体、オピオイド、情動行動 |
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2022年2月 | 第四十四回 昔とった杵柄 |
しばらく前に自転車を購入し、久しぶりにハンドルを握った。懐かしい感覚がよみがえり難なく乗れた。最初に自転車に乗れるようになったのは小学校に上がる前だった。自転車や鉄棒の逆上がり、あるいはゲーム端末操作や楽器演奏など、一度出来るようになると、その後に長い期間休んでもスムーズにすすむ。… |
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【一般】筋肉トレーニング、薬物ドーピング疑惑、組織的ドーピング、ドーピングの記憶、ドーピング判定、昔とった杵柄 【専門】運動学習、筋記憶、筋適応、筋線維、多核細胞、筋幹細胞、脛骨、縫工筋、筋細胞の融合、アポトーシス、筋肥大、ミトコンドリア、エピゲノム、クロマチン、筋肉増強効果、筋肉増強剤、アナボリック・ステロイド、エピジェネティクス記憶 |
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2022年1月 | 第四十三回 スマホの言い訳 |
スマートフォンを買い替えた。電話、メイル、Google検索と地図アプリくらいしか使わなかったから、古い機種でも問題はなかったのだが、電池の持ちが悪くなったのだ。“将来に備えて・・?”と理由をつけて、ガラケーからスマホに変えたのがいつだったか、それ以来、わざわざ高いコストをかけてスマホを使っている。… |
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【一般】投打二刀流、個性、運動能力、顔形、体型、病気、才能、根気、渋谷スクランブル交差点、スマホ、アプリ 【専門】真核生物、ゲノムDNA、クローン人間、神経伝達、代謝効率、傷修復、エピジェネティクス、DNAメチル化、ヒストン修飾、脱メチル化、シナプス数 |
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2021年12月 | 第四十二回 あなたもMVP |
今年は、投手と打者の二刀流で野球アメリカンリーグMVPとなった大谷君、最年少記録を塗り替え4冠王となった将棋界の藤井君など、若い世代の大活躍にたくさんの人々が励まされた。ゲノムDNAが彼らの活躍に関係しているとしたら、私たちにもその可能性があるのではないか、… |
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【一般】アルバート・アインシュタイン脳、人類誕生、初夢、MVP 【専門】遺伝子領域、非遺伝子領域、ジャンクDNA、ウイルス、外来生物由来DNA、進化、コスト、繰り返し配列、コピー数、一塩基多型、SNP、糖尿病、生活習慣病、抗病性、ゲノムDNA、ヒストン、ヌクレオソーム、エピゲノム、新型コロナウイルス、ミュータント |
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2021年11月 | 第四十一回 牛の精進 |
散りそこなった1枚の赤い葉が桜の枝につかまっている。季節は進みもうすぐ冬だ。“精進料理は季節を喰うところにある”、少年時代に禅寺の侍者を経験した水上勉氏のエッセイ「土を喰う日々」にある。… |
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【一般】精進料理、狂牛病、肉骨粉、精進明け、釈迦、銀杏 【専門】草食動物、肉食獣、後産、ウシの肉食行動、牛海綿状脳症、BSE、プリオン、病原性プリオン、本能、オートファジー、栄養素、細胞社会成立、基本戦略、細菌叢、共生細菌叢、温暖化効果 |
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2021年10月 | 第四十回 新型コロナウイルス感染症対策の陰に『007』 |
このところ新型コロナ感染症の感染者数は減少している。ワクチン接種が行き届いた、マスク着用や換気の徹底、手洗いやうがいなど衛生上の徹底、など様々な意見が取りざたされるが、専門家も結論を出せていない。… |
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【一般】007、英国秘密諜報員、ジェームズ・ボンド、ロシアより愛をこめて、サンダーボール作戦、生物兵器、ロックダウン、都市封鎖 【専門】ウイルス、ワクチン、非遺伝子部分、遺伝子領域、ゲノムDNA、新型コロナ感染症、COVID-19、パンデミック、感染抵抗性、ツベルクリン注射 |
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2021年9月 | 第三十九回 カボチャ嫌いの言い分 |
私はカボチャが大の苦手で、天ぷらのかき揚げに入った細かく刻んだカボチャにも身構えてしまう。ウナギが嫌いな身内は、浜名湖土産のウナギ・パイですら遠ざける。我が国では昔から “何でも食べて好き嫌いのない良い子”という言い方がある。… |
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【一般】人類祖先、アフリカ大陸、二本足歩行、多種多様な食物 【専門】味細胞、味蕾、苦味、酸味、塩味、苦味、甘味、旨味、舌、口蓋、受容体、Gタンパク質共役受容体、GPCR、外部刺激、GPCR遺伝子、遺伝子ファミリー、エピゲノム、幹細胞特有、味覚の形成、味覚の維持、苦味遺伝子GPCR遺伝子、T2R38、塩基多型、味覚神経、大脳皮質、味覚野 |
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2021年8月 | 第三十八回 17年前へドライブ |
久しぶりに車を駆って、成田国際空港まで出かけた。成田-羽田の両国際空港を結ぶ直通電車が開通してからは、海外に出かける際に車で出かけることも無くなっていたのだが、17年間乗ってきた愛車を手放すことになり、最後のドライブに成田空港に向かったのだ。… |
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【一般】成田空港、大型ショッピングモール、昭和初期、出発カウンター、海外モード、パスポート、マッキンリー山、ジャンボ・ジェット、Time Travel 【専門】ハワイ大学、柳町隆造教授、胚の培養、クローン動物、クローンマウス、クローン羊ドリー、ゲノムDNAメチル化解析、クローン発生、Oct4、CpGアイランド |
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2021年7月 | 第三十七回 胞衣信仰からゲノム信仰へ |
千葉県佐倉市にある武家屋敷を訪れた時、直径が約20cmの素焼きの皿が目についた。敷地から発掘された武士の家族の胞衣(えな)皿と記されていた。乳児の死亡率が高かった時代、支配者階級から庶民まで受け入れられてきた“胞衣信仰”とも呼べる古くからの風習… |
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【一般】ゲノム診断、新型出生前診断(NIPT)、カウンセリング 【専門】受精卵、栄養膜細胞、胎盤、絨毛細胞、合胞体栄養細胞、胎盤の特殊な免疫系回避、胎児DNA、胎盤由来、DNA、細胞外DNA(細胞フリーDNA)、壊死、アポトーシス、羊水、胎児細胞、確定診断、染色体異常 |
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2021年6月 | 第三十六回 将軍家宣の胎盤 |
文京区の根津神社には、私の所属した職場が近かったこともあり、学生らと連れ立ってよく訪れた。そこには外国人研究者を幾度か案内し「第6代将軍・徳川家宣の胞衣(えな)塚」がある。"胞衣とは“胎児を包んだ膜と胎盤”のことで“後産(あとざん)”を意味する。… |
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【一般】胞衣、胎盤、哺乳類、胎児発育、母親、女性専用、男女不問、胎児期、育児休暇、本郷通り、おでん屋、徳川時代、侍文化 【専門】子宮壁、着床、脱落膜細胞、桑実胚、栄養外胚葉、内細胞塊、エピゲノム、Oct-4、Nanog、分化多能因子、胚性幹細胞、ES細胞、iPS細胞、魚類、爬虫類、鳥類、脳下垂体、プロラクチン、巣作り行動、母性行動、胎盤性ラクトジェン、ステロイドホルモン |
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2021年5月 | 第三十五回 カニのみそ汁は何かの兆し |
英国を舞台にした海外ドラマ(吹き替え版)を見ていたとき、主人公が「・・カニの味噌汁・・」と話したのが聞こえた。いつかコペンハーゲンでウナギの燻製を売っているのを見たことがあるし、グルノーブルでは蕎麦粉のガレットも食べたこともあるから、ロンドンで“カニのみそ汁”も有りか!… |
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【一般】高齢、加齢、日常会話、難聴、小さなトラブル、車の3万個の部品、毎日が車検日 【専門】老人性難聴、突発性難聴、振動の感知、内耳、音受容器官、蝸牛、有毛細胞、有毛細胞、鼓膜、機能限界、組織幹細胞、DNA変異蓄積、テロメア、エピジェネティクス、ヒストン、ヌクレオソーム・ビーズ、ヒストン欠乏、エピゲノム異常、ゲノムDNA不安定、がん、ヒストン・シャペロン |
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2021年4月 | 第三十四回 細胞とミトコンドリアのエピジェネティクス協定 |
環境先進国ドイツでは旧式火力発電所を最新型に切り換える計画が進行中だという。米国ではよりコントロールしやすい小型原子炉の発電所建設が始まっている。完全な脱炭素エネルギー社会への難しさが現れているようだ。… |
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【一般】エネルギー生産、酸素濃度、循環型エネルギー社会、想定外 【専門】光合成、古い細菌、シアノバクテリア、二酸化炭素、地球環境、低酸素環境、酸素呼吸、好気性・嫌気性バクテリア、好気性バクテリアが嫌気性細胞、ミトコンドリア、アデノシン三リン酸、ミトコンドリアDNA、マイコプラズマ、最低限750種類タンパク質、ミトコンドリア1京個(1016個) |
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2021年3月 | 第三十三回 日焼けの幸福感 |
桜の開花が宣言され日差しも強くなってくると、海や山で日焼けした時の心地良さを思い出す。皮が剥がれ始めるまでの少しの間の皮膚がしびれるような(どちらかというと)快感が懐かしく思いだされるのだ。… |
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【一般】紫外線、シミ、ソバカス、シワ、美容、日焼け止め 【専門】光合成、プランクトン、成層圏、オゾン層、生物の陸上への進出、フォトリアーゼ、ゲノムDNA修復酵素、概日リズム、バイオ・リズム、クリプトクロム遺伝子、CRY1、CRY2、ホモログ、エピゲノム複雑化、ヌクレオチド除去修復、ヒストン・バリアント、γH2AX、アセチル化H2AZ、生命35億年 |
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2021年2月 | 第三十二回 ヒストンのジョナサン |
私は団塊世代の最終組に属している。小中学校の1クラスが50名を超しており、社会に出てからは満員電車にゆられていた。… |
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【一般】団塊の世代、大量消費時代、満員電車、カモメのジョナサン 【専門】ヒストン、8量体、ヌクレソオーム、プロタミン、ヌクレオソーム数、遺伝子コピー数、ゼブラフィッシュ、カエル、ヒストン・バリアント、ゲノムダメージ、ヒストン正規兵、ヒストン特殊工作員、ヒストンA2遺伝子クラスター |
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2021年1月 | 第三十一回 始まりはたった1つのできごと |
今、コロナ禍で世界が喘いでいる。「あの時が・・」と、運命の出来事は後にならないと分からない。You must remember this・・♬♪・・ ドリー・ウイルソンの歌“As Time Goes By”、映画「カサブランカ、Casablanca」(1942年)の第二次世界大戦下、フランス領モロッコの酒場の一場面だ。… |
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【一般】カサブランカ、モロッコ、イングリッド・バーグマン、ハンフリー・ボガード、レジスタンス運動 【専門】:ゲノムDNA、クロマチン、ヌクレオソーム、ヒストン(H2A, H2B, H3, H4)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)修飾、セリン、アラニン、ゲノム・データベース、ワラビー、カモノハシ、有袋類、単孔類、エピゲノム |
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2020年12月 | 第三十回 ホームズの雨傘 |
探偵小説シャーロック・ホームズに描かれるシルクハットと細い雨傘を持った英国紳士の姿、いつ雨に降られるか分からない天候不順に備えたロンドンのスタイルだ。しかし、紳士達は少々の雨では傘は開かないらしい。… |
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【一般】安定性、1000ページ、本1000冊分、新型コロナ禍、Go to Travel!Go to Eat!、感染防御 【専門】 ゲノムDNA、安定性、不安定性、DNA塩基配列、ゲノムDNAダメージ、紫外線、X線、ガンマー線、活性酸素、異常細胞、慢性疾患、ガン、DNA破壊、DNA修復、細胞死、DNA複製時、ヌクレオソーム、ヒストン・オクタマー、DNAメチル化、ヒストンアセチル化、ヒストンラクチル化、ヒストンバリアント、H2AX、H2AZ |
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2020年11月 | 第二十九回 甘いけど美味しい!(4) |
本年度、入学した学生たちはネット授業が主で従来型の大学生活は送れていないらしい。猛威を振るう新型コロナ感染の予防のためで、研究室でのセミナーや学会などの機会も大幅に減った。一方で従来型では見えなかった意外な世界も時として顔を出す。… |
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【一般】セミナー、ゲストスピーカー、ビール片手、研究事情、地下水脈、ポストコロナ時代 【専門】初期胚マーカー、がんマーカー、糖鎖抗原、生物学、有機化学、生化学、糖鎖生物学、複合糖質、糖脂質、糖タンパク質、プロテオグリカン、N-アセチルグルコサミン、特異抗体、ヒストンH2A、エピゲノム、グルコース濃度、シアル酸、ホルモン、細胞成長因子、サイトカイン、ヘキソサミン生合成経路、グルコース代謝、フラクトース6リン酸、解糖系、ミトコンドリア、ATP生産、ヘキソサミン合成経路 |
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2020年10月 | 第二十八回 甘いけど美味しい!(3) |
テレビ映画「刑事コロンボ」は、最初の場面で犯人と犯行の全てが明かされた上でドラマが進む。ヨレヨレのコートを着たいかにも風采の上がらない刑事と、豪邸に暮らすスマートな犯人の心理戦が特徴である。… |
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【一般】研究スタイル、コロンボ型、ポアロ型、文献検索、総説、教科書、エピジェネティクス劇場、ミステリーシリーズ 【専門】生物・遺伝子・分子・構造、N-アセチルグルコサミン、GlcNAc、糖タンパク、ヒストンO-GlcNAc化、糖鎖、核膜、脂質二重膜構造、リン酸化、ヒストンアセチル化、ヒストンメチル化、X染色体不活性化、ゲノムインプリンティング |
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2020年9月 | 第二十七回 甘いけど美味しい!(2) |
今年の全米オープンテニス大会はコロナウイルス感染予防のため無観客試合だった。怪我と手術から約1年間かけて復帰した錦織選手の活躍を楽しみにしていたのだが、新型コロナウイルスに感染し欠場となった。… |
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【一般】テニスグランドスラム、トーナメント、肉体、精神、有酸素運動、体調管理 【専門】筋肉疲労、乳酸、グリコーゲン、グルコース、ピルビン酸、乳酸脱水素酵素、ミトコンドリア、エネルギー、ヒストン修飾、ヒストン・ラクチル化、エピジェネティクス制御、マクロファージ、神経細胞、グリア細胞、血管内皮細胞 |
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2020年8月 | 第二十六回 甘いけど美味しい!(1) |
いつの頃か“甘いけど美味しい!”と子供達がつぶやいていた。それから2〜30年、今では“甘いけど美味しい”は、言いえて妙かもと思っている。… |
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【一般】甘味、苦味、ダイナマイト、人工甘味料、サッカリン、チクロ、舐めてみたいという誘惑、エネルギー源 【専門】ニトログリセリン、血管の拡張作用、狭心症治療薬、甘味料、アスパルテーム、グルコース、ATP(アデノシン三リン酸)、NAD+, アセチルCoA、サーチュイン(Sirtuin)、ヒストンアセチル化、一酸化窒素(NO)、キシリトール |
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2020年7月 | 第二十五回 幸福と快楽のエピジェネティクス |
「これっきりですよ、一回だけですよ、いいですね!」と若い医師がモルヒネのアンプルと注射器を手に、私の顔を覗き込み念をおした。私は救急車で病院に運びこまれ、背中の奥の痛さに耐えかね冷や汗でぐっしょりと濡れて、診察ベッドで丸まっていたのだ。… |
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【一般】幸福感、快楽、コカイン中毒 【専門】神経伝達物質、ドーパミン、セロトニン、アセチルコリン、ノルエピネフリン、ニューロン、軸索、樹状突起、シナプス、薬物依存症、神経ネットワーク、エピジェネティクス、ヒステリーシス、エピゲノム、ヒストンドーパミン修飾、腹側被蓋野、ヒストンセロトニン修飾、心的外傷後ストレス障害、パーキンソン病、オピオイド受容体 |
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2020年6月 | 第二十四回 BCGとゲノム・エピゲノムの記憶 |
約1世紀もの長い歴史を持つ結核予防ワクチンBCG(bacillus Calmette-Guérin)に注目が集まっている。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数や死亡者数は、BCG接種が行われている国では少ない傾向にあるという。… |
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【一般】新型コロナウイルス感染、BCG接種、ツベルクリン反応、COVID-19ワクチン、進化 【専門】免疫細胞、単球、ヒストン修飾、H3K27Ace、IL-1β遺伝子領、遺伝子発現、記憶装置、ゲノム情報、ゲノムDNAメチル化、非自己・非自己、制限修飾システム、CRISPR-Cas9 |
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2020年5月 | 第二十三回 歴史の証人、新型コロナウイルス感染禍の中で |
どうやら私たちは想像以上に脆弱な社会に生きているようだ。私たちは誰もが今まさに歴史の証人である。外出を制限して家に閉じこもり、人々との接触を避ける生活のなかで気づいた“あたりまえ”を、PCR検査を例にして記しておこう。… |
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【一般】新型コロナウイルス感染、マリス博士の奇想天外な人生、医療崩壊 【専門】PCR、SARS、核外遺伝子(プラスミド)、クローニング、パンデミック、エンデミック、SARS、MERS、ワクチン開発 |
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2020年4月 | 第二十二回 高額医薬品(2) |
こんな高い価格設定はおかしいのではないか?高額薬の国民健康保険への適用にどこまで耐えられるのか?“がん”治療薬の「免疫チェックポイント阻害剤」治療薬オプジーボ(1700万円)やCAR-T細胞療法キムリア(T3,349万円)も高額である。… |
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【一般】ジェネリック薬、国民健康保険、国民皆保険の制度、専門医外来、多剤投与、難病治療薬、がん治療薬 【専門】抗ヒスタミン内服薬、デキサメサゾン |
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2020年3月 | 第二十一回 高額医薬品(1) |
2億3000万円の難病治療薬が話題となっている。希少性難病の脊髄性筋萎縮症タイプI(Spinal muscular atrophy type 1:SMA1)の遺伝子治療薬ゾルゲンスマだ。… |
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【一般】大手製薬企業、ベンチャー企業 【専門】脊髄性筋萎縮症、SMN1遺伝子、単一遺伝子異常、希少性疾患、ゾルゲンスマ、アデノウイルス・ベクター、難病治療薬開発、血友病、創薬モデル |
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2020年2月 | 第二十回 ジカ熱とハイブリッドの謎 |
“カエルの子はカエル”だが、“鳶(トビ)が鷹(タカ)を生む”たとえもある。前者はメンデルの法則で説明できるが、トビ→タカとなるとこの法則だけでは無理だ。キューバ産とメキシコ産の両親から生まれた蚊が、ブラジル産蚊と交配し、スーパー・スターが誕生したらしい。… |
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【一般】中南米、カリブ海、米国フロリダ、亜熱帯、熱帯、南西諸島、九州、小笠原諸島 【専門】ジカ熱、新生児小頭症、ネッタイシマカ、黄熱(黄熱ウイルス)、デング熱、遺伝子操作、人工遺伝子、テトラサイクリン、雑種、雑種強勢、F1受精卵、F1ハイブリッド、DNAメチル化 |
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2020年1月 | 第十九回 ゴッホとの出会い |
昨年秋より上野の森美術館で「ゴッホ展」が開催されていたらしい。ゴッホの複製画<ひまわり>に出会った、昔のことを思い出した。… |
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【一般】セントルイス、フォルクスワーゲン、ヒマワリ複製画、日米貿易摩擦、トヨタ、ニッサン、ダットサン、廃棄ガス規制、環境保護庁、アムステルダム国立美術館、レンブラント、夜警、ゴッホ、ゴッホ美術館、ゴッホの手紙、創造力、独創性、オリジナリティー 【専門】ワシントン大学、ステロイド代謝酵素、オランダがん研究所 |
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2019年12月 | 第十八回 キジと七面鳥 |
クリスマスツリーで賑わうニューヨークのロックフェラーセンター、クリスマスを楽しみに待つ人々に七面鳥の料理は欠かせない。性格は穏やかでアメリカでは飼育も盛んだ。一方、日本の国鳥である雉(キジ)は… |
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【一般】七面鳥、キジ、桃太郎、イサカ、フィンガーレイクス、アーミッシュ、古い脳、黒メガネ、アイビーリーグ 【専門】家畜化、脳エピゲノム |
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2019年11月 | 第十七回 私は誰?細胞の場合 |
幹細胞などから誘導した細胞・組織で体の回復を目指す再生医療、病気の原因となっている遺伝子領域を突き止め標的薬で治療するプレシジョンメディシン(第7回、第8回コラム)の時代となり、細胞も昔のままではなさそうだ。… |
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【一般】細胞、再生医療 【専門】幹細胞、標的薬、タンパク、複合糖鎖、受精卵、胚性幹胞、iPS細胞、人工細胞、内細胞塊、オレキシン細胞、モチベーション、ナルコレプシー、オレキシン、神経特異マーカー、ヒポクレチン遺伝子、遺伝子サイレンシング、ナルコレプシー、ゲノム編集 |
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2019年10月 | 第十六回 私は誰?個人の場合 |
私の知らない“私”がどこかにいて、オリンピックのチケットを手にしているかもしれない。あれだけ厳重だった東京オリンピックのチケット販売、国外では闇の販売サイトで売買されているそうだ。… |
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【一般】ミズーリ州、ハイウェイ・パトロール、国際免許証、本人確認、暗証番号、匿名化、ビッグデータ、パスワード、購買履歴、信用スコア、格付け | |
2019年9月 | 第十五回 カレーライスの記憶 |
10年ほど前、カナダ政府支援によるカナダ-日本研究者の会合に参加した際、最終日にオタワの日本大使館で立食パーティーが催された。日本を離れて約1週間が経過しており、そろそろ日本の味が恋しくなっていたころだ。… |
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【一般】カレー、寿司、てんぷら、そば、和食 【専門】ヒステリシス、履歴現象、細胞の分化、エピジェネティクス情報、DNAメチル化、ヒストン修飾、クロマチン構造、エピゲノム、凍結保存、ジメチルスルホキシド(DMSO)、血球幹細胞系、DNAメチル化、胚性幹細胞、凍結受精卵、クローン |
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2019年8月 | 第十四回 リンドバーグからのメッセージ |
7-8月にはヨーロッパの共同研究者としばらく連絡が取れないことは珍しくなかった。“審査員が休暇だ”とか、“編集者が不在だ”とかで、この時期にはヨーロッパの専門誌への論文投稿を見送ることもあった。… |
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【一般】バカンス、働き方、連休、その日暮らし、海からの贈り物、リンドバーグ、浜辺、ほら貝、大西洋横断飛行、アガサ・クリスティー、推理小説、オリエント急行殺人事件 【専門】専門化細胞集団、寿命、受精卵、環境、エピジェネティクス、特定遺伝子 |
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2019年7月 | 第十三回 隠れ家でレトリート |
日本語ではなんというのだろう、レトリート(retreat*脚注)は軍隊が戦況をみて作戦を練り直すための一時退却、転じて適当な場所で一定期間行うミーティングも意味する。… |
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【一般】レトリート、リゾート地、日常スイッチ、元スイッチ、偶然と必然 【専門】単細胞生物、多細胞生物、水分・栄養、温度、浸透圧、pH、酸素分圧、外敵、遺伝子発現、グルコース、ラクトース、オペロン説、オペレーター、リプレッサー、転写制御因子、遺伝子発現調節、突然変異 |
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2019年6月 | 第十二回 すこし気になるのですが・・刑事コロンボ |
「どうでもいいと思うのですが、上司がうるさいのでね」と何度も事件現場を訪れ、「なにか変だとおもいません?」と腑に落ちない様子で、しつこく質問を繰りかえし真犯人を追い詰めるドラマ“刑事コロンボ”でおなじみのシーンだ。… |
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【一般】博士号、Ph.D.、PhDコース、科学的、自然科学文学 【専門】胎盤、栄養膜巨細胞、ゲノムDNA、腎臓、脳、胚性幹細胞、二倍体細胞、制限酵素、メチル化シトシン、CpGアイランド、がん、ハウスキーピング遺伝子、DNAメチル化プロフィール |
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2019年5月 | 第十一回 ゲノムのゆとりはゆとりをもって |
ピペット・試験管などのガラス器具を洗う時間は実験の緊張から解放され、適度の満足感によるほっとした時間だった。別の実験台の仲間達も器具洗いに集まるから自然と意見の交換もできた。… |
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【一般】サマセット・モーム、小説、ゆとり、高度成長モデル、人口減、ゆとり教育、脱ゆとり、中教審 【専門】大腸菌、バクテリア、ゲノムDNA、非遺伝子領域、ヌクレオソーム、DNAメチル化、ヒストン修飾、エピジェネティクス、ゲノム修復、ゲノム複製、繰り返し配列、外来遺伝子、ウイルス、哺乳類、真核生物、げっ歯類、胎盤、栄養膜巨細胞、ゲノム倍数化、二倍体細胞、がんマーカー |
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2019年4月 | 第十回 性のエピジェネティクス |
米国で獣医学希望の女子学生が増え始めた2〜30年ほど前、オハイオ大学のL教授が「大変ですよ!オハイオ大学の男子トイレが壊され、女子トイレに変わっている」と、男子学生の成績の悪さを嘆きつつ「これってすごい屈辱だ!」と流暢な日本語で話していた笑顔を思い出す。… |
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【一般】トイレ、目覚ましコール、環境、地球温暖化、ウミガメ 【専門】性決定メカニズム、雌雄同体、性転換、進化、性染色体、X染色体、Y染色体、卵子、精子、Sry遺伝子、性腺、遺伝子サイレンシング、CpG配列、副性腺、脳性分化、性ステロイド、生命の系譜 |
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2019年3月 | 第九回 睡眠3時間でも時間が足りない人生! |
エピジェネティクス・シンポジウムに参加した際、友人のD. F. Antczakコーネル大学教授が「フィルと会って話してみないか?フィルは希少疾患に関心が深いし、彼と会うと良いかもしれない」と話しかけてきた。… |
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【一般】リンカーン、ベンチャーキャピタル、ベンチャー企業、創薬ベンチャー、大手製薬企業、TLO 【専門】エピジェネティクス異常、遅発性、発症原因、マルファン症候群、DNA検査、希少疾患、ORPHAN、難病 |
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2019年2月 | 第八回 我らは和製ポイズンピル世代? |
私が大学院生の1973年頃、店頭からトイレットペーパーが無くなるという事態がおきた。第4次中東戦争で原油価格の高騰がおき(第1次オイルショック)、“物不足に陥る”との不安から人々は物の買い溜めに走り、街は異様な雰囲気に包まれていた。… |
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【一般】オイルショック、イラン革命、イラン-イラク戦争、ハゲタカファンド、企業買収、ポイズンピル、ブロックバスター、医療費高騰、副作用リスク、治療薬開発、希少疾患、難病、分子治療薬、企業買収、ベンチャー企業 | |
2019年1月 | 第七回 小林秀雄の時代とプレシジョンメディシン |
大阪での“プレシジョンメディシン”シンポジウムに参加した際、質疑応答を聞きながら、ふと評論家の小林秀雄の、少し甲高い声を思い出した。… |
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【一般】小林秀雄、ニンジン、下痢、便秘、薬、万能薬、個別化医療 【専門】プレシジョンメディシン、ゲノム医療、ゲノムがん治療、制がん剤、細胞増殖、DNA複製、造血細胞、毛根細胞、ガン細胞、インフォーマティクス、がん促進遺伝子、がん抑制遺伝子、遺伝子異常、分子標的、ゲノム解析 |
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2018年12月 | 第六回 カリブ海のラム酒と”CpGアイランド” |
カリブ海の島国グレナダ(Grenada)での学会に、10年以上前に参加した。グレナダは1498年にコロンブスにより発見され、その後フランス植民地となり、1873年にイギリス領を経て1974年に立憲君主国として独立した。… |
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【一般】カリブ海、グレナダ、深い眠り、ゲノム医療、プレシジョンメディシン 【専門】 CpGアイランド、DNAメチル化、進化、DNAメチル化、メチル化シトシン、5-meC、DNAメチル転移酵素、CpG配列、ウイルス、外来DNA、ウイルスDNA、RNAウイルス、逆転写酵素、脱メチル化、DNA修復、メチル化C、脱アミノ反応、ハウスキーピング遺伝子、がん遺伝子 |
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2018年11月 | 第五回 CpGアイランドで命の洗濯? |
今年の夏は35℃を超える猛暑日が珍しくなかった。そのころ、沖縄や小笠原諸島ではむしろ30〜32℃と過ごしやすかったようだ。今年も残り1ヶ月余りとなってきた。… |
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【一般】猛暑、ラム酒、海、のんびり、リゾート、なぜ?、夕日、ビーチ、砂浜、浜辺 【専門】CpGアイランド(CpG island)、CG島、脊椎動物、CG配列、哺乳類、核酸、リン酸結合、CpG配列、ハウスキーピング遺伝子、組織特異遺伝子 |
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2018年10月 | 第四回 エピジェネティクスの主役DNAメチル化をたどる(2) |
私は片付けるのが苦手で、気がつくと机の上が書類や本の山となってしまい、今も端の方でキーボードをたたいている。仕事ができるヒトの机はすっきりしている、という。… |
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【一般】整理整頓 【専門】原核細胞、ゲノム情報量、遺伝子数、ゲノムプロジェクト、全塩基配列解析、遺伝子領域、非遺伝子領域、ジャンクDNA、DNA二重らせん、5me-C、大腸菌、酵母、ショウジョウバエ、ミツバチ、DNAメチル化、巨大DNA、外来遺伝子 |
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2018年9月 | 第三回 エピジェネティクスの主役DNAメチル化をたどる(1) |
誰かが、どこかで、何かの発見があり、次の発見のきっかけになる。事の始まりは単純ではなく、物事は当初の考えのようには進まないが、それ以上に面白い展開になることがある… |
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【一般】 事の始まり、きっかけ 【専門】 DNA二重らせん、DNAメチル化、エピジェネティクス、ジェネティクス、核酸の構成、アデニン、グアニン、シトシン、チミン、エピシトシン |
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2018年8月 | 第二回 進化と細胞とゲノム |
人間を含む様々な生物は、共通の祖先から進化した(と考えられている)。なぜ(考えられている)とカッコつきなのか?というと、進化そのものを実験で確かめようがない為だ。… |
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【一般】進化、個性、没個性 【専門】受精卵、ゲノムDNA、30億塩基対、遺伝子数、遺伝子セット、60兆個、エピジェネティクス、ゲノムDNA、ヒストン、ヒストン化学修飾、染色体、進化 |
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2018年7月 | 第一回 エピジェネティクスって? |
私たちの体は多種類の個性的な細胞から出来上がっている。これは進化の過程でDNAサイズの増大と遺伝子数の増加に加え、ゲノム制御に変化が生じたことによる。… |
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【一般】私たちの身体、衣更え、東京タワー、新幹線、生命誕生 【専門】 DNA、核、細胞、エピジェネティクス |